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青野賢一ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。www.beams.co.jpshop.beams.co.jp/shop/records/blog.beams.co.jp/beams_records/

小径逍遥、再び。

青野賢一
ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター

「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。
www.beams.co.jp
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No.24 生人形のABC

2011.06.15

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マガジンハウスの『GINZA』で
短いエッセイを書くために、
色々と資料となる書籍を読んだ。

まずは家の中にあるものからランダムに。
「フェティシズムを感じさせるもの」というリクエストがあったので
その手の書籍をあたる。

その中の一冊に『ディートリッヒのABC』という本から
引いている文があるのを見つけた。
曰く「質の悪い靴を三足買うより、いいものを一足求めなさい」。
ちょうど、靴について調べていたこともあり、
気になってすぐにこの『ディートリッヒのABC』を入手した。

ディートリッヒとは言うまでもなくマレーネ・ディートリッヒのことだ。
20世紀に突入してすぐの1901年、ベルリンに生まれたディートリッヒは、
軍人を父に持つ家庭環境において、厳しいしつけを受けて育った。
バイオリニストを目指すも、手首を痛めて断念。
かわりに演劇学校に通うようになり、あるレヴューに出演中、
オーストリア出身の映画監督ジョーゼフ・フォン・スタンバーグに見いだされ、
ハリウッドへと渡り、『嘆きの天使』『モロッコ』(ともに1930年)などの
スタンバーグ監督作品に出演し、グレタ・ガルボと並んで
30年代を代表する女優として名を馳せた。


ディートリッヒはまた、典型的なドイツ人女性としての側面、
すなわち、読書や美術、料理、家事を好む、
知的で誰にでも優しい人物であった。
この『ディートリッヒのABC』は、
彼女のそうした側面が比較的色濃く反映されたものである。


タイトルに違わずアルファベット順にキーワードが並び、
それにディートリッヒ自らが解説を付けてゆく、
というA to Z形式の書籍が、この『ディートリッヒのABC』だ。
キーワードはもちろん、その解説はまさにアフォリズムとして
(一部、時代を感じさせるものもあるが)
なかなか示唆に富んだ内容といえる。


ディートリッヒで思い出されるのは
美術家・合田佐和子の作品だ。
「状況劇場」「天井桟敷」に宣伝美術として参加し、
瀧口修造、澁澤龍彦、巌谷國士らとも
親交の深かったこの美術家が、
往年の名女優を描いたシリーズは、
どれも実在の人物をモティーフにしながら、
どこか人形のような生気のなさを、
実に色彩豊かに描いている。

種村季弘「生人形変相」(青土社『箱の中の見知らぬ国』所収)は、
生人形の記憶に始まり、『嘆きの天使』鑑賞を経て、
合田佐和子の展覧会へと迷い込む、幻想的なエッセイだが、
『ディートリッヒのABC』の言葉を拾って
ディートリッヒに語らせているのが面白い。

本人の言葉のはずなのに、
一度書物に定着されたそれらを語るディートリッヒは、
何だか空々しく、生気がなく、
まさに人形のように思われるのだった。

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