小径逍遥、再び。
青野賢一
ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター
「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。
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No.25 夏、下町、喫茶店
2011.06.29
暑い季節が近づくと、下町が恋しくなる。
子どもの頃に見た夏の情景と重なる、というのもあるが、
雑多な街の風情や、独特の賑やかさが
夏のじっとりした空気と混ざり合うことで生まれる
えも言われぬ現実感の喪失(例えば江戸川乱歩『白昼夢』のような)が
面白いのだ。
先日、とある原稿に浅草のことを
ほんの少しだけ書こうと思い、
せっかくだから実際に行って確かめようと目論んだが、
出先で雨に降られて断念した。
浅草には、行っていないことはないのだけれど、
アサヒアートスクエアでの用事ばかりで、
いわゆる浅草的な場所は、とんとご無沙汰だったから、
とても残念である。
浅草と言えば、「アンヂェラス」などのクラシカルな喫茶店。
幾つか訪れたことがあるのだが、
元来方向音痴かつ店の名前を憶えない私にとって、
再び同じ店に辿り着くのは至難の業だ。
別役実『都市の鑑賞法』(1995年 大和書房)の中に、
「喫茶店」という話がある。
「喫茶店はよそよそしい感じ、ラーメン屋はくだけた感じ」とした上で、
喫茶店は「◯◯すべからず」「◯◯はこう飲むべし」など、
窮屈で息もつけない場所と別役は言う。
そして、そういう締め付けの多い喫茶店に
お客がつくとは思えないが、存外流行っている、と続けている。
別役の喫茶店に対する見方は、
随分と後ろ向きなもののように思われるが、
これは、どこから来るものだろうか。
よほど居心地の悪い思いでもしたとしか思えない。
喫茶店という小さなコミュニティの中での秩序や平和を維持するために、
各々が「自発的に」そういうムードを醸し出す場合と、
店側が、そうしたことを楯に店の主張を通す場合、
両方が考えられるけれども、
別役が体験したのはおそらく後者なのだろう。
あまり押し付けがましいのは、確かにつらい。
ところで、この『都市の鑑賞法』は
「ありふれた都市の風景を舞台装置として捉え直し(帯文より)」た
エッセイ集だ。「デパートの屋上」「自動販売機」「ポスト」など
街中にさりげなく配置されているこうしたものを、
ちょっとひねくれた視点で論じた一冊である。
先の「喫茶店」のように、すんなりいかないものもあるが、
概ね面白く読めるものが収録されており、
喫茶店で読むには肩も凝らず、丁度いい一冊だ。
昔ながらの店で、かき氷でもつつきながら、
が良さそうである。
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