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Ray and LoveRock「写真を撮る人」Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--

Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」

http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

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白日夢の夢。

2012.04.23

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 あまりにも不思議な夢だった。
 起きてからもその感触は残り、匂いも音も、手で触れたものの手触りも、重ささえも記憶の扉を開けるまでもなく、いま目の前に広がる景色のようにぼくは思い出せる。

 ただ、欠けているのは温度。

 その場所は暖かくもなく、寒くもない。裸でいることもできるのだけれど、かといって、着込んでみたから暑い、というわけでもない。気温そのものが、ある種"抜け落ちてしまっている"とでも言えば良いのだろうか?
 「楽園」という言葉を頭で描いてみた。この「温度」の欠落こそが本当の楽園。そんな気分になってしまう場所だった。

 
ぼくは家族と水上の家のようなところに住んでいる。その家はとても白く、カーテンや、ベッドカバー、ベンチにかけている布、ラグマット、すべからくさらりとしたリネンで、抜け落ちた温度の感触をまるで増幅させるように美しく演出していた。温度がないことが当たり前のように。
 ぼくはすでにその白い世界で、温度のなさにかまけて、ベッドのなかで低い血圧が多少でも高くならないか、と待つようにごろごろしている。ベッドなかで起きられないぼくを家族が入れ替わりぼくを起こしに来る。そのいちいちに寝ぼけ眼で、寝呆けた声で答えているのだけれど、いっこうに夢現の狭間でぷくぷくと泳ぎ続ける。
 目の前が広がるのだけれど、そこには船があって、船はどこかの編集部らしく、編集作業をしている。
 女性のひとりは知らない人なのだが、もうひとりは知っている。
 "あ、清水さんだ!(仮名)"と思うのだけれど、声がでない。清水さん(仮名)がいる編集部なのだから、ファッション誌だろう、と瞬時に思う。だから、なんだか、もうひとりの編集者をやたらと不自然に感じてしまう。
 もうひとりは熱心に原稿を書いているようなのだが、それがけっこうエロス。
 「乳首をこう転がして......
 と言いながら実際に乳首をびろんとブラジャーから服からまくり上げて全開の乳首を実際に見ながら、何やら原稿を書かれていた。
 "ファッション誌なのに......"
 と思った疑問のせいか、視覚的な刺激のせいなのかぼくも起き上がって、彼女たちの入校作業を何をするでもなく眺めている。温度のないその部屋で。その間も家族はちょっかいを出してくる。
 おもむろに、清水さん(仮名)が海を渡って、こちらにやって来る。
 ブルーのワンピースが眩しい。

 清水さん(仮名)に関していうと、実在の人物で、とても美しい女性である。あっけらかんとした性格で、ぼくも何度か食事を一緒にした。少しくらいはぼくのなかに"好き"という気持ちはあったのかもしれないけれど、別段気にもしていなかった。
 そう、まさか夢にまで出ててくるなんて!?

 彼女がぼくのそばに歩み寄って来る。
 ふたりで水際に座って、久しぶりだということを確認するけれど、そこに言葉はない。何でか知らないけれど、黙ったままふたりはただ佇んでいる。
 海の匂いがして、かなり朽ちている木製の椅子に彼女は座り、ぼくは立ったまま、彼女を肩越しに見ていた。
 子どもがぼくたちの周りを走って遊んでいる。
 彼女を椅子に座らせたまま、一度ぼくは自分の部屋に戻る。そして、海側にある出口というか、サンルームのような作りの、部屋とも外とも言えない場所に戻ると清水さん(仮名)は叩きにあるベンチに寝そべっていた。
 "どうしたの? 疲れているんだね"
 と心のなかでいうと、ちゃぷちゃぷという水の音、海の音が聴こえる、そんな状況で。
 "ううん。あなたの顔が見たくて"
 水の音とは別な場所――たとえば胸のなかに直接――で彼女の声を聴いている。
 ぼくは自分が撮影した写真を彼女に見てもらう。ガーリーな写真で、モノクロで、ブロックチェック、ポンチョ、オーバーオール。ガーリーなアイテムが揃ってる。
 "ファッショナブルよ"
 そんな風に風の音とは別な場所――たとえば眼のなかに直接――で彼女の声を聴いている。うれしい。
 ぼくは向かいに顔を会わせるように寝そべる。――白くて長いベンチなのだ。
 ふたりは見つめ合って、何か、そう"何か"を話している。それはとてもおしゃれなことのようにも感じるし、エロティックな話にも聴こえる。子どもの声とは別な場所――たとえば指先から脳に響くように――聴いている。声とは別の、その声が美しい。清水さん(仮名)、あなたは美しい女性だ。単純に想う。
 "あなたの顔が見たいの"
 また、どこからともなく、物理的に空気を震わすことなく声が聴こえてくる。優しく。包むように。
 清水さん(仮名)は写真を縦にして持って、顔を隠すように、そして、眼だけ見えるようにしている。
 美しい眼だと想う。見とれているぼくがいる。ぼくよりもドキドキしているのかもしれないけれど、清水さん(仮名)は飄々として。ぼくをからかうような眼で見ている。
 写真を挟んで、彼女がキスを誘っているのがわかる。写真を挟んで彼女の唇のあるところにぼくの唇を当てる。少しずれていることが唇の感触でわかる。彼女に写真をどかして欲しいと言おうかと、その瞬間、写真はなくなっていた。
 重なりあう唇。暖かく、柔らかく、切ない感触。舌が滑り込んでくる。温度がない。湿度は100パーセントなのに。彼女の舌が見えるようだ。動きも、すべて。
 キスの時間。楽園の時間。

 
ぼくたちはキスをしたのだ。

 
叩きに水が入ってくる。
 やれやれ。満潮だ。
 彼女が帰れなくなってしまう。
 ぼくは、キスを止めて。
 おもむろに立ち上がる。
 彼女にも、立つように誘う。
 彼女の白い手が延びて、ぼくに向かう。
 その手を取って、彼女を引っ張りあげる。
 ""
 彼女の声が聴こえてくる。
 脳に。
 ダイレクトに。
 ぼくは彼女をおんぶして、海に足を浸ける。
 思ったより深い。
 海の水は青く、そしてどこまでも透明で。
 ごつごつとした岩、溶岩のような底が見渡せる。
 そして、温度だけがない。
 ぼくは腰まで遣って。
 彼女も濡れてしまった。
 彼女の船は木造船だった。

 彼女の船に辿り着くと、彼女はありがとうとぼくの脳にダイレクトに言ってきた。

 そして、はじめてぼくの耳が清水さん(仮名)の声を捉える。
 「ほかのところも濡れたみたい」
 声にしなくてもわかっていた。
 だけれど、どうしようもないのだ。
 ぼくは泳いで自分の家に戻った。

 
叩きで寝転がって、ブルーのワンピースから少し大袈裟に太股が露になっている清水さん(仮名)がいる。
 「ここの2階もうちの会社なの」
 といって、うっとりするような眼をこちらに向ける。
 やれやれ。最初に巻き戻したみたいだ。
 せめて、温度があったら。そう思うくらいが精一杯だった。

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