紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--
Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」
http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/
憧れと夢見る場所。
2012.04.27

リビングルームはずっと憧れのものだったのかもしれない。
狭い家に家族4人で暮らした。狭いからいつもいる場所が決まっていた。それはそれで悪くないことなんだけれど、ほかに場所があって、それでもここ、という場所ではなく、狭いのだから、ここは父親、ここは母親、ここは自分、ここは弟。もうそれしかなかった。そこに布団を敷いて、寝る。ただそれだけの家に育った。だから、リビングとか、ダイニングとか、ソファとか、そんな横文字に憧れていたんだと思う。
ひとり暮らし最初の時はソファを買うまでいかず、ただ漠然と部屋をもて余してしまった。実家から近かったし、ひとりがそれほど良いものではない気がしたのかもしれない。東京の、それもほとんどど真ん中で生まれ、育つと、なんだかいろいろ面倒になってくるのだ。ほかの人の当たり前が自分の当たり前にならない。
ぽつんと、板張りの床に座って、何もない時間が過ぎていった。
女の子の家に転がり込んだとき、その子のソファはその子のものだった。ベッドは買ったけれど、ソファはそのまま。仮に寝る場所だといって、小さなソファがそこにあった。そこはリビングだったけれど、いま思うと自分の思うリビングではなかったのかもしれない。
また、ひとり暮しが始まった。今度はソファを買った。だけれど、それはソファというには中途半端なもので、当時流行っていた、カウチンソファであり、半ベッドであり、シエスタの習慣のない日本人のぼくには、酔っぱらって仮眠をとるものだったし、二日酔いの日に惰眠をむさぼる場所でしかなかった。
本当は尊敬するインテリアスタイリストに相談して買ったのだけれど......。
何の理由があったのか、もう忘れてしまったけれど、そのカウチンベッド&ソファも捨ててしまった。それほど安くはなかったけれど、自分を考えてみたとき、しっくりとは来ていなかったことを思えば、惜しくはなかった。
しかし、そこからぼくのソファ難民が始まることになろうとは!
というのは、引っ越しを前提にしたやや狭いリビングの部屋を借りてしまったのも原因かもしれない。そこで文字通り間に合わせでビニールレザーのソファというにはかなりベンチなふたり掛けを買ってしまったものだから(約2万円)、流浪の民なわけである。
HOBOはHOBOなりに理想というのがあって、現実と闘って生きる訳なんだけれど、何しろ確固たるこだわりはないけれど、それなりのこだわりは残っている。このあたりの中途半端なセンスというやつが一番厄介なんだけれど。
もともと、古着なんかが好きだし、モダンテイストよりは単に古いだけで好きな部類になるほどストライクゾーンが狭いんだか広いんだかわからない男、それがおれなわけで、なんだか書いていて、読んでくれているみなさんに、おれでごめん! と謝りたくなってくるほど。
それでも、うちのなかは古びを生業にしている「NOTE WORKS」とアンティーク家具を生業にしている「SHP」のタッグに内装をしてもらったりしているものだから、なんちゃってではあるものの、古い感じがそこここにひょっこり顔を出しているわけである。
だからなんだけれど、おれでごめん男、筆者は方々HOBOするわけですよ、駄洒落じゃなく、マジで。インターネットのなかをサーフィンするのはもちろん(そういえばネットサーフィンって聞かなくなったね)、目黒や代官山、渋谷に三宿、原宿から恵比寿と古い家具や周りもする。新しい家具を売る店も新宿とか銀座とか行ってみた。
ひとつは古いものだと、なかなか良いのがない。チェスターフィールドというという、イギリスの定番ソファはあるんだけれど、なんとなく好きではない。単純にぼくの趣味ではない、というだけなんだけれど。それ以外を結構見たのだけれど、松田聖子さんならビビッと婚(古くてごめん!)するようなセクシーギャルには出会えず、時間は過ぎ、訪れた店の数をサーキットの狼のように、使っているベンチソファのアームレストに★を描くのが精一杯という日々が続いていた(またしても古すぎ!)。
そして、新しいもの、アンティーク加工のものもたくさん見てみたけれど、自分としては何かが、そう"何か"が違う。ピタッとはまらないがゆえだんだん妥協ができなくなっていった。
別に諦めても良いのだ。
たかがソファじゃないか。
何だって良いじゃないか。
革製で、シンプルで、ちょっと古びがあって......。大きめで。
それがないんじゃん!
いい加減どこかで妥協点を見つけないと我が家のリビングは、どこか間抜けな空間になってしまう。
とはいえ、見てきたものはすべからくジグソーパズルのピースが欠けているものばかりだった。
そして、それは我が家のリビングも同じで、リビングルームとして、ジグソーパズルのピースはまだまだ足りないものだらけだったのだ。
ジグソーパズルのピースはひょんなことから見つかる。
いつもとは違う検索ワードを入れたつもりはないのだけれど、検索に引っ掛かった家具のサイトがあった。http://www.visionscoax.jp/
そこにあったものは、まさしく、シンプルで、古びが感じられて、ちょっぴり不良の匂いがしていた。ファミリーには似つかわしくない、でかいソファ。
問い合わせてみる。和歌山にある会社で、神戸などに置かれているが、東京に住むぼくがこのソファを目にするには静岡がもっとも近い。無理だなぁ。そんな風に思いながら。でも、何かが引っ掛かっている。自分の感覚に触れる何か。これは良いんじゃないか? そんな気分。
恋をするにも、物理的にも精神的にも、その人を好きになってしまう性質だから、恋に似ていると言えば、ウソになる。ネットの情報と、そこにある写真だけでその商品にフォーリンラブなどできはしない。だけれど、恋にも似た気分が、気持ちの端っこをくすぐった。
結果的に現物に触れることなく、買うことに決めたのだった。
現金を振り込んで、到着を待った。和歌山県から、遠路はるばるやって来たその物体をひと言で表現してみる。
でかい!
縦にしたダンボール箱は、2メートル以上あって、鯨でも入っているようにも見えた。
しっかりサイズを考えずに買ったため、搬入時に、ひとり四苦八苦すること約1時間。玄関はなんなく入ったのだけれど、そこからのほんの短い廊下とも何ともいえない通路がギリギリだったのだ。正確にはその通路と玄関を分けるところ、つまりは境界線みたいなところの両側に細い柱みたいなのが飛び出ていて、そのせいで通路の幅が海峡のように狭められていたのだ!
困った。
これはひとりでは無理なんだろうか!?
誰か呼んで庭から入れるか?
ソファごときに、何をしているんだ、おれ? 悪戦が苦闘する、そんな瞬間だった。
箱からも出せず、片側の肘掛けがちょこんと出た、包茎手術の広告のタートルネックくんにも似た状態。春だというのにTシャツに汗がにじむ。
そんな包茎状態(仮性)をじっと見てみる。いとをかし。
じゃなくって! 見ると、短い脚、そこにありけり。あり、をり、侍り、いまそかりを思い出す。いや本文の流れとは無関係に。ただの木のキューブをつけただけみたいな脚だけれど、そこがこのソファを気に入った理由でもあった。その脚にぼくの脳みそはロックオン!
こいつ、はずせるかな???
下を覗くと穴二つ。人を呪わば穴二つ、も思い出した。文脈とは一切関係ない。
その穴を覗くと、しっかりあった。ネジの頭が。
というわけで、ドライバーを取りだし、こいつを取って、無事部屋に入りける。めでたし、めでたし。
リビングに置いてみると、ずっと前からそこにあったみたいに、確かな空間を作っていた。でかいのだから、当たり前と思われるかもしれないけれど、でかければ、存在感ばかり主張することが多い。でかいのにささやかな佇まいなのだ。
そいつと自分の時計の針は動き始めた。
スタッズも悪くない入り方だ。エイジングされた革も無理した感じがなく、自然にひび割れた気さえする。
でかいけれど、でかくない。
それでいてソファらしい風貌。
しばらくはこいつと生活を共にするんだろうな、と思う。
追記。ソファ的な存在より、ベッド代わりになっている夜も多いことを報告して、この文章の締めとしたい。