
野村:かもね。作品で見ないじゃない。だいたい一枚でしょ。音楽で言ったらシングルで曲を選んで、あとでベスト盤を選ぶ、みたいな感じで写真を見るから、いきなり一冊で見せられてもわかんないんだろうね。けどパッケージでわかることってあるのにね。そのために鈴木君みたいなひとが、必死こいて徹夜して写真集作ってるわけで。写真の順番を入れ替えたりしながら。それがあとで生きてきたりするわけなんだけど。今は違ってきてるよね。
鈴木:それでいいと思いますけどね。
野村:まぁ抗っても仕方がないからね。だってデジ(タル)が出たときも、みんな「こんなのカメラじゃねぇ」って言ってたけど、結局みんな使うことになったし、文句言ってたやつもみんなインスタやってるし(笑)。いい写真って固定概念がないから、俺らがいいと思ってる写真は、何年代から何年代にこういう雑誌とか見て音楽を聞いて、そこで刷り込まれたものだから、それを今押し付けることはできないよね。そこがまた面白いところなんだけど。
山谷:だから、ライアン・マッギンレーみたいなひとが人気出たのはわかりますよね。そういえばアメリカ人がアメリカを旅して撮ったのって、この人じゃんって今思いました。
野村:ライアン好き?
山谷:はい。最初の初期衝動をくれましたよ。
鈴木:僕は一冊目とか二冊目が好きだったな。
山谷:普通のスナップのとき、みんなをバスに乗せてアメリカ中を旅する前のやつですよね。
野村:そこまで売れる前に、みんなで住んでたっていう家に行ったことがあっ。そこで蔵書を見せてくれて、量は大したことないんだけど全部初版本なの。
山谷:あのひともコレクターですもんね。
野村:そう。(アンディ)ウォーホールがすごく好きで、NYのひとの写真集とか持ってるんだけど、そういうのは「こないだのショーのお金を全部突っ込んで買ったんだ」みたいな。
山谷:すでにすごい売れてたんですね。
野村:いや、でもまだ出始めたときだね。『ニューヨーカー』に「恐るべき子供たち」って書かれるちょっと前だから。まだダン・コーレンとかと一緒に住んでたようなとき。
山谷:そのへんが、俺が最初に写真を撮り始めたときの衝動ですよ。ダッシュ・スノウのポラロイドを見て、俺もポラロイドから始めたんだし。
鈴木:じゃあ『デューン(DUNE)』の林(文浩)さんには、、
山谷:俺は林さんには会えないで終わったんですよね。そこが名越さんとは全然違うんですよ。いつもその話ししますよね。
名越:そうだねぇ。
山谷:こうやっていろいろ見てると思うんですけど、写真集見てると楽しいですね。写真って、自分の知ってる何かとひも付けて、脳が勝手に補完していくじゃないですか。けど例えば映像だとそれは映ってるものでしか捉えられないというか。
野村:そうだね。映像はパッケージで完結してるから、それが今は見たくないのかも。自分のペースで見たいのに映像の場合はストーリーとかがしっかりしてればしてるほど、今の気分じゃないんだろうね。
小林:時間を支配されてしまいますからね。
野村:うん。若い子はここで写真集を買っていきますか?
小林:はい。けっこう来ますよ。あ、でも写真をやってる子が多いですかね。フラッと来たオシャレ好きの子は雑誌を買っていきますね。こないだは90何年の『スタジオボイス』を見て「生まれる前です」とかって言ってましたね。
山谷:ここのお客さんは20代~30代が多いでしょ?
小林:そうだね。
野村:これ(『THE FAMILY ACID CARIFORNIA』)はどんな作品なの?
小林:それは、ベトナム戦争のときにカメラマンとして従軍してたお父さんが撮った写真なんです。お父さんがフィルムでずっと撮ってて。そのあと帰国してヒッピーのコミュニティに入って暮らして、その間もずっと写真を撮ってたみたいで。で、最近になって子供達が「親父の写真、超やばいじゃん」みたいになってそれをインスタにアップし始めて、それで人気になったんですよね。これで3作目かな? 『THE FAMILY ACID CARIFORNIA』っていうくらいなんで、家族で作ってるんです。お母さんがたしか編集者で、お父さんがカメラマンで。
野村:お父さん、まだ生きてるの?
小林:おそらくまだご存命だと思います。
野村:へー、初めて見た。これ買っていきます。
小林:ありがとうございます!
野村:山谷くんの写真集もここで売ってるんですよね?
小林:はい、もちろんです。
山谷:なんだったら、小林さんが一番多く売ってくれてるかもしれないです。
野村:じゃぁぜひ、この記事を見たフイナムの読者のみなさんも、ここで山谷くんの写真集を買って、そしてこれよりも俺の方がうまくやれるぞという方はガンガン本を作ってみてください(笑)。
山谷:はい、下からどんどん出て来てもらった方がいいですね。
野村:本を作るっていうのは、昔よりも敷居が低くなっているところもあるから。
山谷:ですね。編集者みたいなひとと交わらなくても、一人でやれる土壌は整ってますよね。自費出版も簡単にできるし。
野村:Tシャツを作るのも何するのもめちゃくちゃ簡単にはなったし、そういうのはいい時代だなって思うよね。なにか固形物を作るのって、その道のプロじゃないとできないってまだ思ってるところがどっかにあるけど、実際はできるからね。
山谷:そうですね。
野村:ただ、ものが多すぎて、検索すればなんでも出てくるんだけど、情報がフラットすぎて、何が信用できるかがわかりにくくなって、選ぶのが難しくなった。昔は雑誌とか見てこの人は信用できるとかあったけどね。そういうときは本屋さんに来て、お店のひとに聞いてもらえればと。昔はさ、CD屋のポップを見て買ってみて、実際にポップ通りの音がしたりすると「このひとは信用できる」とかあったよね。けどなかには逆にPOPをよく書くのに長けたひとがいて、完全に騙された!ってこともあったけど。
山谷:そうそう。ありますよね。
野村:けどそうやって、お金を使って騙された経験がないとわかんないよね。
小林:そうですね。失敗しないといけないですよね。
野村:今はお金をかける前に、無料である程度はわかっちゃうからね。無駄金を使わないとか、見栄を張らないっていうのはいいのかもしれないけど、若い子って失敗を避ける傾向にあるじゃない。
山谷:うん、無駄は大事ですよね。これを撮りたいって決めて行くというよりは、どうなるかわからないけど、とりあえずやるっていうことが、自分も面白かったし。カメラってすごく冷酷だからそのままを映してくれるので、それに俺は委ねたんですよ。わかりきったことをやるんじゃなくて、無駄が大事だし、そういうことを意識してものを作ってるなって、今の話を聞いて思いました。
野村:よく若い男の子に声をかけられて「いろんなことをやってて羨ましい」って言われるんだけど、今の俺を初めて知った子たちだから、昔のことはそんなに知らないんだよね。けど、俺がちゃんと食えるようになったのって、子供が生まれてからなのね。真剣に仕事をし始めたのがそのときだから。今何かをなしたから、昔のバックパッカーだったこととかもよく見えるし、聞こえるかもしれないけど、やってたときは全然違ったからね。
山谷:さっき話した、何もなかったクリスチャニアの話とかも同じですよね。
野村:それすらもよく聞こえるのは、作品を出したりこうしてメディアで話せる立場にいるから、「あぁ、山谷さんもやっぱり旅したりしてたんだ。。」って思ってもらえるかもしれないけど、俺はバックパッカーやって日本に帰ってきたときに、完全に自分の人生を無駄にしちゃったなって本当に思ってた。にっちもさっちもいかなくなってたし。けど、今はその話が全部美しくまとまっちゃったのよ。そこに行くまでにはものすごい大量の無駄があるから。だからコロナでみんな「時間を無駄にしないように」って言ってるけど、いや無駄にしましょうと言いたい(笑)。
山谷:俺だって来年ぐらいには、もう横須賀の家イヤです、みたいになってるかもしれないですしね。
野村:そうそう。ってこんな感じでいかがでしょうか。
山谷:はい、ありがとうございます!
野村:あとは最後に「旅」の本をみんなで選んでみましょうか。今日は本屋さんを紹介するために来たところもあるので。


山谷佑介セレクト
『WIM WENDERS: WRITTEN IN THE WEST』

野村訓市セレクト
『THE FAMILY ACID: CALIFORNIA』

小林孝行セレクト
『YUSUKE YAMATANI: DOORS』

鈴木聖セレクト
『MARK CROSS: THE PAIN CENTER』