Selector 3_SIESTA 青木 崇
デザインはダッフルコートだけど、アイテム名はなぜかM-65!?
ー 急にアカデミックな考察が始まったことで、オジさんチームに対するハードルが一気に上がりました(笑)
青木: やだなぁ…(笑)。とりあえず持ってきたのを出しちゃいます。ダッフルコートとレザーのコーチジャケットです。
ー ちなみに、それぞれいつ頃のモデルなんですか?
青木: う〜ん、そこは知らない。「ブルールーム」の2人に訊いて!
羽月: (即答で)1998年と2001年ですね。
一同: オ〜!(拍手)

青木: じゃあ、記事内ではぼくが答えたことにしておくということで(笑)。まずはこのダッフルコートなんだけど、〈シュプリーム〉って、ずっとM-65をつくり続けていることでも知られていて、これもアイテム名は「M-65 TGL PARKA」。正直、生地感に何となく近いノリを感じるものの、デザインに関しては「どこがだよ!」っていうくらい別物です(笑)。果たしてこれが、M-65から派生して誕生したのか、はたまたダッフルコートに無理やりM-65的雰囲気をくっつけたのか、真相は不明。とはいえウールメルトンのダッフルなんかよりも軽く羽織れるし、生産が〈スピワック(SPIEWAK)〉でアメリカ製っていうのが、古着的にもイイなぁって。
伊藤: 〈シュプリーム〉がちゃんとブランドとして服づくりをしはじめた時代っすよね。

青木: この当時は M-65自体も〈スピワック〉が OEMで生産していたし、格好いいんです。チンストラップやエポーレットなど、スケーターにとっては余計なディテールを無くしたりしていて、すると本家〈スピワック〉からまったく同じデザインのものが翌年にリリースされるっていうね(笑)。そのアメリカらしいラフな感じもイイ。ちなみにシェルはコットン/ナイロンのハーフ&ハーフ。中綿が入っているので結構暖かいんですよね。
ー これは継続的にリリースされたモデルなんですか?
青木: う〜ん……。
坂本: じゃあ、「ブルールーム」に訊いてみましょうよ!
羽月: 多分、1回だけじゃないですかね。
一同: へ〜(感心)
青木: …確か1シーズンだけだったね(ドヤァ)
ー いま知ったばかりの情報をドヤ顔で(苦笑)

青木: カラーはこのネイビー以外に、アイボリーとオリーブの3色展開。ロゴが入っているとかでもなく、あってもピスネームのみっていうシンプルさ。まぁ、そのくらいかな。要は「なんか格好いいじゃん」っていうね。
坂本: でも、これを着ていたら服好きは反応しますよ。「それどこの?」って。
青木: そうそう。その時にピスネームを指差して、さりげなくアピールするみたいな。オリーブとネイビーは同色だけど、アイボリーはブラウンっていうのも芸が細かくて。
伊藤: そこは覚えているんですね。
青木: これに関しては、いっぱい売ったんで覚えているだけ(笑)

ー 結構見つかるんですか?
青木: いや〜もう、ほとんど出てこないし、今後もつくらないんじゃないかなぁ。いまだったら背中にアーチロゴとか入れちゃうだろうし。そういうのも全然格好いいんだけど、自分がこの年齢になって、それを着るかっていったら話は別だなって。
ー ニュー・ヴィンテージとして考えるならば、その視点は重要ですもんね。
さすがニューヨーカーというべきか、スケーターなんだけど大人なコーチジャケット。

青木: 次に紹介するのは2001年にリリースされたスエード素材のコーチジャケットです。アイテムの見どころとしては…(視線をブルールームの2人に向けつつ)。
坂本: また他力本願じゃん!(笑)
一同: (爆笑)
青木: でもね、ホラ見て。紙タグでしょ?
ー ということは…?

青木: そうそう、そういうことですよ(笑)。スエードでコーチジャケットをつくっちゃうという発想自体が、さすがニューヨーカーというべきか、スケーターなんだけど大人だよね。さっきも言ったけど、オーセンティックなアイテムに対するイジり方が抜群に上手い! ちなみに着心地に関して言えば、重いしフォルムも悪いの二重苦(笑)。袖先にリブがないので、ストンとしたシルエットになるため、ちゃんとジャストで着ないと格好悪いっていう。でもその不便さというのがアメリカっぽくて愛らしいというか。
伊藤: 他のブランドが〈ショット(SCHOTT)〉とのコラボでつくったりしちゃうところを、あの当時にインラインでつくるというのがすごいスよね。
坂本: サンプリングっていう手法だったり、ストリートブランドの服づくりにおける礎になっているとも言えますよね。
青木: そうそう。新しいデザインを生み出さなくても、格好いいモノは自分たちでつくれるっていう。そこにスケーターマインドが感じられるのが〈シュプリーム〉なんじゃないかなって。
坂本: イイなぁ〜、まさにヒップホップですね。
青木: えっ!? なんて?
伊藤: だから、ヒップホップだなって。
青木: そうそう、ヒップホップなんですよ。
一同: (爆笑)

ー 〈シュプリーム〉は、古着をサンプリングしたアイテムも多いですもんね。伊藤さんが以前手掛けていた古着屋「T」にも、〈シュプリーム〉のデザインチームがよくサンプルを買いに来ていたとか。
伊藤: そうスね。そもそも彼らも古着ばかり着ていますからね。みんなお洒落だけど、たとえすれ違っても〈シュプリーム〉のデザイナーなんて、普通は分からないと思いますよ。
青木: つくっている連中がそもそもお洒落。だからぼくらが若い頃って、〈シュプリーム〉は格好いい大人たちが着ているブランドだったので、それに対する憧れはいまもある。
伊藤: (ブルールームの2人をチラチラ見つつ)これ、定価はかなり高そうですよね。
青木: (ブルールームの2人をチラチラ見つつ)定価かぁ…いくらかなぁ…?
ー 面倒くさいオジさんたちだなぁ(苦笑)

羽月: 2001年の『ブーン』に新作として載っていたので、年代は覚えていたんですが定価まではちょっと…。でも、ぼくはこれを見た瞬間、〈グッドイナフ〉を思い出しました。あそこも91〜92年にスエードのコーチジャケットをつくっていたんですよね。
青木: あったあった!
羽月: その後の1999年に〈シュプリーム〉ともコラボしていたりと関係性は深いので、もしかしたらそこからサンプリングした可能性もあるのかなって。
伊藤: それはあり得るね〜。
青木: ……最後にオイシイところを全部持ってかれたわ!(笑)
一同: (爆笑)