ブランドや工場が続いていくのに重要なものとは。
ーということで、〈コーギー〉の工場に到着です。


金子:ロンドンから約300キロ、クルマを運転して到着しました。〈コーギー〉はぼくがまだ若い頃からめちゃくちゃ憧れていたブランドなので、その工場ということでやっぱり感動しましたね。創設者の方が犬のコーギーを飼っていたのが由来だよという話を聞いたりして。
ー〈コーギー〉といえば、やっぱりソックスのイメージが強いですよね。



金子:ソックスがめちゃくちゃ売れているみたいなんですが、ニットもばりばり編んでますね。


金子:それでこれが工場にあった余った糸なんですけど、これだけだと1~2枚しかニットが編めないみたいで、どこにも出せなくて使い道がないそうなんですよ。ぼくはもともと〈コーギー〉で同型のニットを50色くらいつくりたいと思ってて、これを使えばそれができるなと思って。ブランドの人も「ミニマムなしで好きなの選んでいいよ」と仰ってくれたので、好きな色をピックアップしました。結果的に20数色しか選べなかったんですけど、もう二度とつくれない糸だし、一点もののコレクションという形で「レショップ」で販売しようかなと思ってます。
ー工場に足を運んだからこその別注が、いきなりできたわけですね。
金子:糸を残すことは工場がつぶれてしまう原因になるそうで、先方としてもありがたい話だったみたいですね。アップサイクルに近いことですから。
ー次は〈サンスペル〉の工場です。

金子:〈コーギー〉の翌日に向かいました。こちらもウェールズから300キロほどあるので早朝からクルマを走らせながら。


金子:〈サンスペル〉は超シンプルなカットソーという印象だと思うんですけど、この工場で働いているのは勤続20年以上のベテラン職人ばかりで、手仕事に近いような作り方をしているんです。「私たちがつくっているのはテイラーTシャツなんですよ」と担当の方に言われたんですけど、それがすごくしっくりきましたね。生産管理もしっかりしていて、素人には縫わせないんですよ。


金子:あとは古いシーアイランドコットンや貴重なアーカイブも見せてもらったり。こういうのが残っているあたりに歴史あるブランドのすごみと、イギリスらしさを感じました。
ーここではどんな別注を仕込んだんですか?
金子::〈LE〉と同じ考え方で、9サイズ展開のカットソーをつくろうと思ってそれを説明したんですけど、あまり話が通じなかった様子なんです。ぼくらとしては9サイズやることで、自分の体型に合ったものとか、いつもとは違うバランスで着たいという人にユニークなサイズのアイテムを提案できると思っているんですけど、工場の方々はそれよりも「どうつくるか?」ということのほうが気になるようで。
ーそれも品質につながる職人魂のようなものなんでしょうか。
金子:おそらくそうだと思います。「とりあえず私たちのスペック表にサイズを埋めて」と言われて、結局受けてくれることになりました。
ーこの日は〈ジョン・スメドレー〉の工場にも行かれたんですよね。



金子:はい。このブランドは歴史が長いので、すごくよかったです。とにかく広くて、古い機械から最新の機械までいろいろとあって。〈サンスペル〉はポルトガルにも工場があって、新しいデザインの服はそっちでつくっているのに対して、〈ジョン・スメドレー〉はなんでもこいっていう感じで、とにかくいろんなオーダーに対応できるようになっているんです。

金子:あとはこのブランドに限らず、機械にこうして家族の写真や好きなアーティストのポストカードなんかを貼っている人たちも多くて、ちょっと気持ちが暖かくなったりしましたね。


金子::これはその当日に泊まったホテルです。〈サンスペル〉のスタッフさんに予約してもらったんですが、ぼくらはホテルも決めずにとにかくアドベンチャー気分を楽しむスタイルでバイイングしています(笑)。
今年の夏はイギリスもすごい猛暑で40度近くあったうえに、部屋にクーラーがついてなくて過酷だったんですが、すごくいい画が撮れそうということで、日本から持ってきたサンプルをスタッフに着せて撮影をしていました。
ー1分1秒も無駄にしないという意気込みが伝わってきます。
金子:バイイングだけじゃなくて、いかに別の収穫があるかどうかなので。日本では絶対に撮れない画が撮れるので、これもしっかりとPRに繋げていこうという精神ですね。


金子:そしてこちらは翌日に行った〈ラベンハム〉ですね。ここにも〈コーギー〉のときみたいに、余った生地がいっぱいあって。ただ秋冬の素材ばかりだったので、これから仕込むのは難しいかなと思ったのですが、なんとか年内に納品してくれるとのことで楽しみです。


金子:ここではキルティングをつくるマシンも見せてもらいました。結構新しいもののようで、いかに効率良く生地をつくるかということ、そして技術をアップデートしながら自分たちらしさを保持するかを大事にしていました。そういうのを知ると、やっぱり感慨深いものがありましたね。

金子:〈ラベンハム〉はスナップボタンを使うことが一般的で、普通のボタンホールでやろうとするとものすごく値段が上がるんです。簡単な作業なのにどうして? と思っていたんですけど、行ってみたらその理由がわかったというか。スナップボタンをつけるラインしかないみたいなんです。そうやって自分たちのやることを守っているんですよね。

金子::この方は社長です。すごくかっこいい人で、ぼくらが持っていった別注のサンプルを着てもらいました。
ー〈ラベンハム〉に限らずどのブランドでも職人さんたちはプライドを持ちながらやられているんですか?
金子:まさにそんな感じで、とにかくプライドしかなかったですね。長く働いている人たちが多いのもうなずけますね。自社愛がとにかくすごいんです。
ーそういう人たちがつくっているほうが、いいものが生まれるに決まってますよね。
金子:ブランドや工場が続いていくのは、やっぱり人によるところが大きいんだなと再確認しましたね。

金子:この日は急遽キャンプ泊をしたんです。道中にグランピングできる施設があることを知り、撮影の目的もあったので迷わず予約しました。けど、思いのほか遠くて大変でしたね。
金子さんのお買い物 その2

リブの長さが特徴的なアーガイルニット。イギリスのニットといえば、という佇まい。

いまだにファンの多い〈グッドイナフ〉のアイテム。当時イギリスでも人気を博した。

控えめなワイドスプレッドカラーのシャツは、タックイン前提。ラフに着るのも◎。

金子::泊まった翌日も朝から撮影をしました(笑)。これはブリストルで仕入れた〈カーハート〉のリメイクのアイテムです。
ー寝る暇がなさそうですね。移動時間も多そうですし。
金子:結構働きづめで、寝る時間は少ないです。毎朝早朝に移動もしているので。同行する人はみんな驚いてますよ。だからずっとスイッチが入りっぱなしです。気が緩むとどっと疲れが押し寄せてくるので。
