旅のストーリーをしっかりと活かしたものづくり。
ーここからニューヨークを離れて、ロサンゼルスに行かれたんですよね。
金子:そうですね、西側へと向かってサンフランシスコにも行ったんですが、この後いろんなトラブルが起こるとはつゆ知らず…。
ーどんなトラブルが起こったのか気になるところですが、とりあえず話を前に進めていきましょう。


金子:ロサンゼルスに着いて1日目はなにもなかったんですが、リサーチをしながら良さげなゴルフウェアのショップを見つけたり、〈RRL〉や「ロンハーマン(Ron Herman)」に行きました。同行していたうちのスタッフが、 新しく出来た〈ボーディ(BODE)〉のお店で購入した高額なジャケットが、のちに…。
ーなにかあったんですか?
金子:盗難に遭ってしまったんですよ…。
ーなんと!
金子:そうなんです。それはまだ序の口なんですけど。



金子:こちらはマーケットの様子です。ここでは古着を仕入れたり、鉄を溶接する学校の生徒が着るレザージャケットがあって、それもかっこよくてまとめて買い付けました。おしゃれな人もたくさんいましたね。



金子:ここは僕が世界でいちばんかっこいいと思っている自転車屋さんです。「ゴールデン・サドル・サイクラリー(GOLDEN SADDLE CYCLERY)」という名前です。お店の裏には自転車がこんなに停めてあって。ちっちゃいお店なんですけど、すごくいいんですよ。

金子:そしてレンタカーを借りてサンフランシスコへと向かうわけなんですが、なんと車内でアリが大量発生していて…。
ー前途多難ですね…。
金子:さすがにアリを連れたまま600キロの道のりを運転するのは辛いので、すぐにチェンジしてもらいました。

ーヨーロッパのときのように、その道中でも古着屋を見つけたりしながら寄り道をしていたんですか?
金子:ロスからサンフランシスコの道中はなにもないので、そのままストレートですね。ただ、クルマで行ったのがそもそも失敗だったということに後で気づくんですけど…。


金子:到着して早々、街のど真ん中にある公共の駐車場にクルマを停めて、「アルズ・アタイア(ALS ATTIRE)」というお店に行きました。ここは本当にいいお店なので、サンフランシスコに来たら絶対に行ったほうがいいです。いろんなものが雑然と置いてあって、お店のかっこよさでいえばトップクラスですね。


金子:アルさんという方がオーナーなんですけど、テーラーなんですよ。それで服をオーダーでつくってくれたりとか、あとは靴もつくってくれるんです。ぼくらは某アメリカの革靴ブランドを取り扱いたいと思っていたんですけどできなくて、それに代わるシューズをここでつくってもらうことにしました。職人さんも何人か働いていて、シューリペアのサービスもあるんですけど、とにかくなんでもやってくれるんですよ。モノのクオリティもめちゃくちゃ高くて、その割に値段も安いので本当にいいお店なんです。

金子:そしてここで大事件が起こりまして、車上荒らしに遭いました。そしてまたクルマをチェンジするという…。
ーなにを盗られてしまったんですか?
金子:僕だけでもトータルでウン十万円くらいの物がなくなっていました。〈ライカ〉のレンズ、〈リーバイス®〉の3rdのGジャン、お気に入りのショートホーンのウエスタンシャツなどなど。 ロスのホテルに置ききれないものを全部クルマに載せて持ってきたんですけど、そこに大事なものがいっぱいあって。商品系のものを入れてなかったのが不幸中の幸いだったんですが。
ーバイイング中に車上荒らしに遭うのは初めてですか?
金子:初ですね。レンタカーを狙っているんです。その日に対応してくれた人曰く、「今日で俺だけで4台目だよ」と。きっと1日に何十台も被害があるんでしょうね。サンフランシスコへは飛行機で行って、移動はタクシーとかにしたほうが絶対にいいです。
金子さんのお買い物 その1

サンフランシスコで買ったコーデュロイパンツ。車上荒らしにあって、そのあと着替えが欲しくて古着屋に行って買ったもの。けれど、結局未だに履いてないそう(笑)。

〈アルズ・アタイア〉のサイドゴアブーツ。オーダーメイドなので、お店に並んでるものは他のひとのオーダー品などだそう。「サイズはちょうどで、ワイズがかなり広め。既製靴にはないフォルムにぐっときました」

(左)The WHOのアイテムがあるとつい買ってしまうそう。(右)「世界一かっこいい自転車屋」と金子さんが熱弁する「ゴールデン・サドル・サイクラリー」。


金子:翌日はめげずにオークランドへ行って大谷選手のゲームを見てきました。この日はベーブ・ルースの記録に並ぶかもしれないという日で、見事にホームランも打って勝ち投手になり、僕たちの悲しみをしっかりと癒してくれました。
ー大谷選手の活躍は気持ちをポジティブにさせてくれますよね。



金子:そしてこちらは絵描きのお姉さんと、服をつくるお兄さんがカップルでやっているブランドなんですけど、すごくスタイルがあってかっこよかったです。
ここでもインスピレーションをもらって、いい話を聞いたんですよ。アメリカは長距離トラックが走っていますが、その人たちに向けたラジオ番組がたくさんあるらしいんです。
ーそういうカルチャーが根付いていると。

金子:そうなんです。そういうカルチャーに付随して、いろんなワッペンもつくられているそうなんですけど、それがものすごく可愛らしくて、そうしたものもヒントにしながらこの女性は絵を描いているそうなんです。それでこの後、旅の流れでそのワッペンを大量に見つけることになるんです。
ーそういうのもやはり、人とのコミュニケーションでヒントが見つかるわけですね。
金子:そうなんです。その話を聞いていなかったら、確実にスルーしていました。そんなこんなでサンフランシスコでもいろいろ古着屋などを見たりしながら、ロスに戻ります。

金子:そして翌日にいくつかアポイントがあって、〈レディ・オブジェクツ(READY OBJECTS)〉という手編みのアクセサリーなどをつくっているブランドへ行きました。


金子:こちらはシルク100%のカットソーをつくっている〈ユンヌール(UNE HEURES)〉というブランドで、“MADE IN LA”なんですよ。フランス人の女性がやっているんですけど、彼女はアメリカ育ちで、昔の映画に憧れてそこからインスピレーションを受けているようですね。インスタグラムを見るとヴィジュアルもそうした影響を感じてユニークです。
ーこちらは〈HTC〉ですか?


金子:そうです。昔、みんなスタッズのアイテムをつけてたと思うんですけど、ぼくは買ったことなかったんですよ。だけど、最近なんだかスタッズものが熱くなっているのを感じて見てきました。この人たちはディーラー業もやっていて、 ビーントートがたくさんあったので、それにスタッズを打ち込んだ別注をうちでやろうかなと思ったり。あとは〈リーバイス®〉のコーデュロイのジャケットを持っていたので、そういうのに打ってもらったりしました。

金子:そしてロサンゼルスといえば、〈セーブカーキユナイテッド(SAVE KHAKI UNITED)〉ですね。こちらはディレクターのデヴィッドさん。このブランドは「ジャーナル スタンダード」でも取り扱っているんですけど、ここってファクトリーなんですよ。だからいろいろものづくりをしているんです。
ーここでもなにか仕込みがあるんですか?

金子:元々ロスでもものづくりをしたいなと思っていて、〈LE〉というレーベルをやってますけど、〈LA〉をやりたいなと。そう思いながらも、どういう服をつくるかアイデアは空っぽだったんです。ただ、今回車上荒らしに遭って、自分で着るものを古着屋とかでいろいろ買っていたんですけど、それを題材にしようと思ったんです。
ー旅のストーリーをしっかりと活かそうと思ったわけですね。

金子:それでこの写真に映っているものをロサンゼルス風にしたらどうなるだろう、と。肩パットの入っているジャケットとかってローカルの人たちは着ないと思うんです。それをロサンゼルス流に変換してもらって、生地もコットンのツイルにしたりとか、薄手のコーデュロイにしたりとか、この街で着られる素材に当て込んでものづくりをしようということで、いま企画中ですね。
ー〈LA〉楽しみですね。続いてこちらはどなたでしょうか?

金子:右側の人が〈モニタリー(monitaly)〉というブランドのYuki Matsudaさんですね。オフィスに伺ったら、僕が「The CO-OP」をやっていたときに仲良くなった福田くんという男の子がバイトしてるという、不思議な縁もあったり。ご自宅に伺ったんですが、とてもおしゃれな家でした。





金子:夜にはこういう地元ならではのお店に連れて行ってもらいました。70~80年代の香りがすごくして、本当に映画に出てきそうな場所なんですよ。来ているお客さんもスタイルがあって、みんなかっこよかったです。



金子:翌日には〈クラッチゴルフ(CLUTCHGOLF)〉というブランドも見てきました。日本人が手がけていて、ゴルフウェアを日常的に着るというコンセプトでやっているブランドですね。ビスポークをカジュアルにしたような雰囲気で、古い生地を使ってつくっているみたいなんですけど、ここもかなりイケてました。
ー古着の聖地であるローズボールにも、しっかり行かれているんですね。



金子:当たりがなかなか無かったんですが、マサチューセッツから来ていたおじさんが、しこたまデッドストックを持ってて最後に大逆転できました。80~90年代のものが多くて、レギュラーのなかでもより上玉なアイテムとか、ヴィンテージも少しだけありました。足を伸ばした甲斐がありました。
金子さんのお買い物 その2

LAのフリマで見つけた「タコベル(TACOBELL)」の新品のユニフォーム。

ダメージ具合が気に入って購入した後染めのシャツ。

LAの「ロンハーマン」で購入した写真集。Amazonで購入可能。とくに左は必見。

LAのマーケットで購入したアメリカ製の〈ヴァンズ〉。アメリカ製で、サイズがあってればとにかく買うそう。「やっぱりムードが全然違うんですよね」


金子:このバイイング出張の最後にディズニーのコレクターに会ったんですけど、この人がとんでもないお金持ちで、家にあるもの全部売り物だよって言うんですよ。それでお邪魔したら、ワッペンを見つけて。
ー先ほど話されていた、長距離トラックカルチャーのワッペンですね。

金子:そうなんです。すごくかわいくてとんでもない量があったんですけど、それも買い付けました。もうすでに買い手がいるような話をしていたんですけど、僕らが多少抜いてもバレないから、と(笑)。そんな感じで今回のバイイングを無事に終えることができました。
