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蔡俊行フイナム発行人ファッション関係のマーケティング全般に関する仕事が主業務。WEBマガジン「フイナム」の発行主。

代官山通信

蔡俊行
フイナム発行人

ファッション関係のマーケティング全般に関する仕事が主業務。WEBマガジン「フイナム」の発行主。

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国立競技場考

2012.11.16

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 日本でサッカーの聖地といえば、ウェンブリーではなく、国立競技場である。Jリーグ発足以前の日本リーグ、いやそれ以前から聖地なのである。野球少年の目線で見ると甲子園に匹敵する球技場。いまも高校サッカーの予選が行われているが、準決勝からこの球技場が使われる。全国何千何百の高校生と関係者がここを目指して頑張っている。

 この競技場はファッションショーでも良く使われている。フィールドを使うのではなく、通路やスタンドの下を使ってランウェイをするなど、突飛なことを好むファッション関係者から支持され、一時良く使われていた。

 ちなみにぼくもそんなショーや、サッカーの試合、その他いろいろでよく通わせてもらっている。80年代のトヨタカップや高校サッカー、発足間際のJリーグ、2002年ワールドカップ予選やリアルマドリードのベッカムを観にここへ足を運んだものだ。新宿ハーフマラソン参加の際は、競技場の中へ入って、トラックを走らせてもらった。

 その国立競技場は1964年の東京オリンピックのために建設されたので今年で48歳。かなり老朽している。一般的に日本の建築物の寿命は50~60年というからそろそろ引退の年頃である。

 そんな状況下、被害日本代震災の復興予算の一部がここ国立競技場の補修工事に使われていてけしからんというような話もあった。どうして震災復興に東京の国立なんだというのがそのけしからんとされる理由だが、あの震災でヒビが入って危険だからというのが、補修の理由だ。要求した費用が3億3000万円で、批判されたため1億5225万円と半減されたらしい。

 ぼくもこのニュースを聞いて、なんだかおかしな話だなと思った。毎年年間約30億円もらっている補助金でそういうのは補修するべきだと。

 さて。その国立競技場の新しいニュース。2019年に日本で行われるラグビーのワールドカップに向けたタイミングで競技場をごっそりと建て替える計画というのはご存知だと思うが、そのデザインを担当する会社が決まったというのだ。国際デザイン・コンクールというコンペを催し、イギリスの建設設計事務所が勝利を納めた。

 ザハ・ハディド・アーキテクトという建築事務所でデザイナーは代表のザハ・ハディドさん。バグダッド生まれの女性らしい。

 デザイン画を見るとなんだか宇宙船のようだ。醜悪に見えなくもない。しかしこういうものの評価はこうした一時的なスパンの話ではなく10年、30年、50年のスパンで考えなければならない。パリのエッフェル塔だって、作られた時はあまりにも街並みと調和が取れなさすぎてパリ市民から総スカンだったのは有名だし、新しいところではルーブルのガラスのピラミッド、あれも酷評の的だった。

 しかし個人的な好みを言わせてもらえばこのデザインはまったく論外。まるでこれまでの国立競技場の歴史をまったく無視してまったく新しいものに作りかえたかのようなデザインだからだ。

 どちらかというと個人的にはこのようなランドマーク的な建物は、ドイツ車の進化のようなデザインの発展が望ましいと思う。30年前のポルシェもいまのポルシェも地続きなデザインだし、ベンツもBMWもそう。DNAが着々と生き続いている。

 つまり現在のデザインを今日的(いや近未来的でもいいや)にリデザインして、屋根や照明など新たに設置する部分に意匠を工夫したらいいのにと思う。数年前の改修で生まれ変わった甲子園球場だって昔のイメージを大切にし、蔦もまた絡めるというではないか。国立競技場だって甲子園に負けないくらい思い入れの強い人は大勢いる。まったくもってそういうところに配慮がないのが残念。

 NYのワールドトレードセンターのような悲しい歴史がある建物は、やはり同じように立てなおすのに抵抗を感じる人も多いと思うので、ゼロからの発想でいい。しかしわずか数十年前にできたとはいえ、それなりの歴史のある建造物だ。

 なんだか本当に残念。

 さらに国際コンクールにかけるというコンペは公平だし、文句のつけようもないが、こういう仕事こそ、日本人の建築家にお願いして欲しかった。日本の若い建築家にチャンスと実績を与える意味でも税金はそういう日本の未来を見据えた方向で使うようによろしくお願いします。


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