機能や意味を重視するから、服がどんどん研ぎ澄まされていく。
7月某日。金子さんの姿は富山にありました。〈ニュートラルワークス.〉を運営するゴールドウイン社にて、パタンナーと共にサンプルの最終チェックが行われています。
みなさんがチェックしているのは、90年代の古着をリファレンスにデザインされた「WIND ANORAK」。元ネタはスポーツブランドのものですが、「機能よりもデザインのほうが重視されている」と金子さんは話します。
「90年代ってテクノロジーの過渡期というか、当時のスポーツウエアをいま眺めるとすごくアナログな感覚があって、中途半端なつくりをしているんです(笑)。それをどう『ARCHETYPE』として生まれ変わらせるか。みんなでブランドらしさを考える上で、いいお題になると思ったんです」。
最低限の動きやすさだけが確保された古着のアノラック。そのルックスをデザイナーと話しながら現代的に整える。そして、そこで生まれた“基礎”をパタンナーをはじめとしたチームと共にさらにブラッシュアップし、具体的な機能や実用性を盛り込んでいく。そのようにして「ARCHETYPE」の服はつくられています。
〈ニュートラルワークス.〉の服って、動きやすく、機能的に作られているから、複雑なんです。それに比べて『ARCHETYPE』のアイテムはめちゃくちゃシンプルだから、皆さんにとっては仕事がしやすいと思っていたんですが、『シンプルで普通だからこそ、誤魔化しが効かない』って話をされていたのが印象に残っていますね」。
スポーツウエアのように身体に沿った複雑なパターンを採用するには、当然豊富な経験と知識が必要です。逆にシンプルなパターンでは、カッティングの線がそのまま服のシルエットとして映し出されます。だからこそ、パタンナーの力量が試されるのだとか。
「本当に微細な差でも、それがフォルムに影響する。デザインでカバーできないからこそ、シンプルな服は難しい。その上で“10年着られる服”のパターンも考えなければならない。時代によって求められるシルエットも変わるから、これも難易度が高くなった要因ですね…。とはいえ、皆さんにとっては考えることが楽しさにもつながっているようで、話を聞いていて安心しました(笑)」。
そしてもうひとつ、金子さんが驚いたことがあります。それが“機能”。単に普通の服をつくるのでは、〈ニュートラルワークス.〉とタッグを組んだ意味がありません。日常に寄り添う機能を付与してはじめて「ARCHETYPE」としての命が吹き込まれることになるのです。
「サンプルを眺めながらみんな『そこにこんな機能を入れるのはどう?』っていう意見が出るんですよ。生地を選ぶにしても、パターンを引くにしても、そこに『どんな意味があるのか』ということを必ず考えていて。そういうアイデアや知識はぼくにないものだから、勉強になりますね」。
トップアスリートたちがフィールドで着用するハイスペックなウエアから、日常を便利にする機能的なプロダクトに至るまで、スポーツ、アウトドアの文脈で、数々の名品を生み出してきたゴールドウイン社。長年培われてきた知識や技術をベースに、研究開発を重ねながら新しいものづくりを続けています。
「いろんなアイデアが出てきて、それが渋滞することはないの? って思うかもしれないですが、みなさん感性よりも理性を重視して話されていて。ファッションってどうしても感性で考えがちだから、答えがないものに対して意見を言い合うことで衝突が起こってしまう。でも、〈ニュートラルワークス.〉のチームはそれがない。見た目よりも機能や意味を重視するから、服がどんどん研ぎ澄まされていくんです」。
チームの方々に話を聞くと、返ってきたのは「見た目だけではなく、見えないところにこそ工夫しています」という声。そこにプロフェッショナルとしての矜持を感じずにはいられません。
「『服ってこんなにいじるポイントがあるんだ』って、さらなる奥行きを見せられた感じですね。想像を越えたものづくりをしたいって最初に思っていたんですけど、つくっている段階からそれを実感しています」。